いや昨夜《ゆうべ》飛込んだものが然《そ》う急に浮く訳のものじゃアない、似た人は世間に幾らも有る、お筆さんはよもや死んなさりゃアしまい、心配なさんな」
 清左衞門は実に呆然《ぼんやり》して、娘は盗賊《どろぼう》の汚名を受けこれを恥かしいと心得て入水《じゅすい》致した上は最早世に楽《たのし》みはないと遺書《かきおき》を認《したゝ》め、家主《いえぬし》へ重ね/″\の礼状でございます、其の儘浪宅をさまよい出《い》で諸方を探したが知れん。不図《ふと》気附いたは高奈部《たかなべ》の家の姪《めい》は放蕩無頼の女で、十六位から浮気心が有って、只今は女郎に成って居ると云う事だが、折々先方から手紙が来て、私《わし》に知らさんように手紙の贈答《やりとり》をして居ったが、万一《ひょっと》したら行《い》き宜《い》いから左様な処へでも行きはしまいかと、是から吉原へ這入って彼処此処《あちこち》を探して歩行《ある》いたが分りません。店先を覗《のぞ》きながら段々来て、江戸町一丁目の辨天屋の前まで来ました。
 娼「ちょいと喜助《きすけ》どん、あの格子先に立って居るお客さんに会いたいから、そら覗いて居る人だよ」
 喜「えへ
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