えんだ」
 清「昨年の十月頃から再度参り、お前の処の娘を他《わき》で欲しがる番頭とか旦那とか有るから世話を致そうと申しますが、私《てまえ》取合いませんでした、すると昨年の暮廿九日に又|私《てまえ》方へ参りまして、三十金並べまして、お前さんはお堅いけれ共三十金は容易《たやす》い金じゃアない、殊に暮ゆえ百金にも向うじゃアないか、此の金《きん》を取ってお嬢さんを他家《わき》の妾にしなさればお前さんの為めになる、悪い事は勧めないと申しますから、私《わたくし》は立腹致して、不埓至極な婆《ばゞあ》だ、仮令《たとい》浪人しても武士だ、一人の娘を見苦しい目掛手掛に遣れるものか、何《なん》と心得て居る、そんな事を云わずにと申して又金を出しましたから、私《わたくし》は立腹の余り婆の胸倉を捕《と》って戸外《おもて》へ突出して、二度と再び参る事はならんと云って、唾《つばき》を横ッ面へ吐ッ掛けて遣《つか》わしました」
 金「それだ、何しろ嬢さんの行《い》きそうな処は有りませんか」
 清「左様、何処《どこ》と云って尋ねて参る処も有りませんが、小日向《こびなた》水道町に今井玄秀《いまいげんしゅう》と申す医者が有りま
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