ば何うでもなるが、何ういう理由《わけ》だか薩張《さっぱり》理由が分らねえ、恨を受けるような事は有りゃアしませんか、姉さんは他人《ひと》に憎まれるような事は有るまいと思うが何か有りませんか」
 清「何処《どこ》へ参りました」
 金「何処へ行ったか分りません、世間へ対して面目なくお前さんに叱られると思って何処《どっ》かへ行ったのでしょう」
 清「はい私《わたくし》は斯《か》く零落を致して裏家《うらや》住いはして居っても人様の物を一厘一毛でも掠《かす》めるような根性は有りません、殊《こと》に御当家様から多分に此の春は戴き物をして何一つ不足なく餅も搗《つ》き明日《あす》は七草粥でも祝おうと存じて居ましたに、人様の物を取りますなんて」
 金「取ったか取らないか未だ分らない、なにお筆さんが人の物を取る訳はないが、お前さん何か本郷町の桂庵の婆アに恨を受けるような覚えは有りませんか」
 清「桂庵の婆ア、あの何《なん》ですか、色の黒い肥満《ふとり》ました…」
 金「左様」
 清「あの豊胖《でっぷり》肥満ました、頭の禿《はげ》た」
 金「左様」
 清「うゝむ、あの婆ア」
 金「ほら何か有るに違《ちげ》えね
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