す」
 と云って居る所へ、人を掻分けて近江屋金兵衞が参り、
 金「何だ/\」
 番「是は大屋さん入らっしゃいまし、相手は帰りましたが、本郷町の桂庵|婆《ばゞあ》のお虎てえいけない奴で」
 金「何か取ったのか」
 番「婆アが取ったんじゃア有りませんが、貴方の店子《たなこ》で、それ浪人で売卜《うらない》に出る人が有りましょう」
 金「ア、ア」
 番「あの綺麗な娘が有りますな」
 金「ア、お筆さんと云うのだが、何《なん》だえ、何《ど》う云う間違いなんです」
 番「婆アが云いますには嬢さんが巾着を取ったって、嬢|様《さん》が着物を着て了《しま》い、手拭を絞ってる所へ婆アが板の間から飛んで来て嬢さんの袂へ手を入れると、辷《すべ》り込んだのでゞも有りますか巾着が出ましたお嬢|様《さま》が他人《ひと》の物を取るようなお子様じゃア有りませんが」
 金「なにー、篦棒めえ、貴様は何だ」
 番「湯屋の番頭で」
 金「何だって番をして居るのだよ」
 番「番はして居ましたが、袂から巾着が出たので」
 金「出たって他人《ひと》の物を取るようなお筆さんじゃアねえのに、そんな悪名《あくみょう》を付けられて堪《たま》る
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