つ程の嬉しさ、是から僅《わずか》な物を持って娘が礼に参るような事で、其の年も果てゝ宝暦三年となりましたが、職を致す者は大概正月|廿日《はつか》迄は休みますので、此の金兵衞の宅《うち》の内職も十七日迄休みでございます、丁度六日お年越しの朝早く起きて金兵衞は近辺に年始に出ました、此方《こちら》はお筆が昼飯《ひるめし》を喰《た》べましたから、かねて近金から貰った小紋の紋付に紫繻子の帯を締めて出ると一際目立つ別嬪《べっぴん》でございます、時々金兵衞の家内とお湯に行《ゆ》きますから誘いました。
筆「お内儀《かみ》さんお湯に入《いら》っしゃるならお供を致しましょう」
蓮「私は今御年始客が有るから先へ行ってお呉れ、直《すぐ》に後から行《ゆ》くから、柳原町のお湯だろうね」
筆「はい」
娘は一人でお湯に参りましたのが一つのお話になりますことで、お筆がそこ/\に湯から上りましたがまだお内儀さんが来るようすがない、何か御用が出来てお手間が取れるのか、お迎いに行《ゆ》こうかと、手拭を小桶で絞って居ると、最前から板の間で身体を洗って居た婆さんは、年の頃六十四五で、頭の中央《まんなか》が皿のように禿げて居
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