ア締めないんで、此の簪《かんざし》は私が若い時分に買ったんですが、丸髷《まるまげ》には差せないから、不粋《やぼ》なもんですが…」
 金「貴方にお歳暮に羽織を上げましょう」
 清「是は何うも斯うは戴けません、其んなに無闇と然《そ》う下さる訳のものではない、又人様に無闇と戴くべき道理がない、然う御贔屓下さいますと却《かえ》って褪《さ》めるもので、何うか末長く幾久しく」
 金「其んな堅い事を云わずに取ってお置きなさい、只上げやアしません、後で差引きますよ」
 清「こんなに何うも何共《なんとも》ハヤ千万有難う、親子の者が助かります、彼《あれ》は誠に孝行致して呉れ、親思いでワク/\致して呉れますが、才覚《はたらき》の無い親を持って不便《ふびん》とは思いながら、何一つ買って与える事も出来ませんが御当家《こちら》へ内職に上《あが》るように成ってから、結構な櫛を戴いたり、食物《たべもの》まで贈って下さり、何《なん》たる御真実の事か実に何《ど》うも此の御恩は決して忘却は致しません、千万辱ない事で有難う、折角の思召ゆえ当季拝借致しましょう」
 と悦んで包みに致し小脇に抱えて宅《たく》へ帰って話すと娘は飛立
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