もない、私の綿入羽織が有ったろう、お前さんの身装を軽蔑《けなす》んじゃアございませんが是は古くって一旦|染《そめ》たんで、一寸《ちょっと》余所《よそ》へ行《ゆ》く時に之を着て出て下さると私《わたくし》は鼻が高い、然《そ》うして姉《ねえ》さんは是非寄越して下さいよ」
 清「是は何共《なんとも》何《ど》うも御親切千万有難う、親子の者が窮して居りまするのを蔭ながら御心配下され、着物がなければ貸して遣ろうと仰しゃる思召《おぼしめ》し、千万|辱《かたじけな》い事で、御親切は無にいたしません、然《しか》らば拝借を願います」
 蓮「姉さんを屹度《きっと》お寄越しなさいよ」
 清「何《ど》のようにも是は願わなければ成りません、筆も嘸《さ》ぞ悦びましょう」
 金「お筆さんと云いますか、私は始めてお名を覚えました宜しく」
 清「左様なら拝借を致します」
 と清左衞門|悉《こと/″\》く悦んで、ニコ/\しながら家《うち》に帰って来ました、娘お筆は、寒さの取附《とっつき》だと云うにまだ綿の入った着物が思うように質受《しちうけ》が出来ず、袷《あわせ》に前掛だけで短い半纒に幅の狭い帯を締てお筆は頻《しきり》に働い
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