奉行は、
甲「うむ、然うじゃろう、何《いず》れの藩じゃ主名を申せ」
筆「はい、巣鴨《すがも》傾城《けいせい》ヶ窪《くぼ》の吉田監物《よしだけんもつ》の家来下河原清左衞門と申す者でございます」
甲「うむ、何故《なにゆえ》屋敷を出《いで》て浪人致した、主人の不興でも受けて追放を仰せ付けられたか何う云う事じゃ」
筆「少々御主人様の事に就きまして親共が諫言《かんげん》を申した事がございます、其の諫言が却って害に相成りまして不興を受けてお暇《いとま》になりましたが、父は物堅い気性故、仮令《たとい》主《しゅう》でも家来でもお家の為を思う者を用いなければ止むを得んから主家《しゅか》を出る、飢死《うえじに》しても此の屋敷には居らんと、重役の者と争論《いさかい》を致しまして家出を致しまして四ヶ年程浪人致して居りました」
甲「うむ、主家に何《ど》の様《よう》の事が有ったか其の方|弁《わき》まえて居《お》るか」
筆「深い事は存じませんが、御妾腹《おめかけばら》の」
と云い掛けると清左衞門が顔で頻《しき》りに電光《いなびかり》をして居ります。
甲「清左衞門控えろ、此の者が申すに仔細はない、其の
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