と云い掛けると清左衞門が、むゝと眼で知らせますから、
筆「はい」
と泣き度《た》い程|悲《かなし》いのを耐《こら》えて砂利の処へぺたぺたと坐りました。明奉行《めいぶぎょう》だから早くもそれと見て取って、
甲「筆暫く控えろ」
筆「はい/\」
甲「是なる浪人者を其の方は見知り居《お》るか」
筆「はい、い、え」
甲「隠すな、隠すと為にならんぞ、是なる浪人下河原清左衞門は、長谷川町の番人喜助を毒殺致した罪に依って長らく入牢仰せ付けられ、再度の吟味に逢うと雖《いえど》も白状致さぬ、毛頭覚えはないとのみ、然《しか》れば主名を明かせと云えば武士《さむらい》の道が立たん、士道が立ち難いに依って主家のお名前は仮令《たとえ》身体が砕けても白状を致さぬと申し張って居《お》るが、是は其の方の伯父か」
筆「いゝえ」
甲「父か」
筆「いゝえ」
甲「何故《なぜ》隠す、主家の名前を申せば免して遣わす、其の方見知りの者で有れば申せ此の者が助かる事で有るぞ、其の方は元築地辺に居って何か災難に依って入水致した処を助けられたのが只今の孫右衞門で有る由上に於て篤《とく》と其の辺は調べが届いて居《い》る、
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