至極で有る、けれども其の日/\に差迫って、明日《みょうにち》は父に米を買って与える事も出来ぬ処から、其の金子を以て米薪に代えて父を救った其の孝心に依《よっ》て父を思う処から、悪い事とも心附かず迂濶《うっか》り其の金を使い是から家主と相談の上で訴え出ようと云う心得で有ったが、其の中《うち》に勘次郎という者が其の方の手許に金子の有る事を知って盗み取ったが、全く訴え出ようと心得て居《お》る内に其の金を取られたので有ろうな」
 とお慈悲な事でございます。

        十[#「十」は底本では「九」と誤記]

 お筆は漸々《よう/\》顔を上げまして、
 筆「はい左様で」
 甲「何《ど》うじゃ町役人《まちやくにん》」
 藤「全くは是から訴えようと内々《ない/\》下話《したばなし》もございましたので、処を盗み取られましたんで」
 甲「これ下話が有ったら何故《なぜ》訴えぬ」
 藤「いえ是から下話を致そうかと考えて居りましたんで」
 甲「なんだ、筆なる者は罪もなく殊に孝心な者故助け度《た》いとて訴え出でたる幸十郎は最《い》と神妙の至りで有る、筆|儀《ぎ》は咎《とがめ》も申し付けべき処なれども、其の親
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