町役人」
 藤「へえ」
 甲「此の筆なるものゝ父は長らく病中|夜分《よる》もおち/\眠りもせずに看病を致して、何も角《か》も売尽し、其の日に迫って袖乞に迄出る事を支配をも致しながら知らん事は有るまい、全く存ぜずに居ったか」
 藤「遂《つい》心附かずに…」
 甲「呆《たわけ》、其の方支配を致す身の上で有りながら、其の店子《たなこ》と云えば子も同様と下世話で申すではないか、其の子たる者の斯《かゝ》る難儀をも知らんで居《お》るという事は無い、殊には近辺の評も孝心な者で有ると皆々が申す程の孝心の娘なれば、其の方心に掛けて筆を助けて遣らんければならぬ、夫《それ》が手前の役じゃ、貧に迫って難渋なれば難渋の由を上へ訴えてお救《すくい》を乞うとか何とか訴出れば上に於て御褒美も下《くだ》し置かれる、然《しか》るを打捨て置いて袖乞に出る迄の難渋をかけると云うは、其の方|不取締《ふとりしまり》で有るぞ」
 藤「お……恐れ入りました」
 甲「筆其の方は見ず知らずの者より大金を貰い受け、紙を披《ひら》いて見たら多分の金子が有ったなら、早々町役人同道にて上へ訴え出なければならん処を、隠し置いて其の金を使いしは不届
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