で其の日に追われ、僅《わずか》な物も売尽して仕方がなく明日《あした》米を買って与える事が出来ませんと、真に袖を絞って泣いての頼み、真実|面《おもて》に顕《あら》われましたから、あゝ感心な事じゃと存じまして、遂《つい》刻印金とは存じて居ながら、是なる娘に恵み与えました金子が却《かえ》って娘の害と成りまして、長らく病んで居ります処の親を一人残して入牢|仰付《おおせつ》けられたは如何にも筆へ対して手前気の毒な思いを致しました、筆には決して科《とが》のない事でございますから何《ど》うか町役人共へお引渡しに相成りますれば有難い事に存じます」
甲「うむ、是れなる筆に何両の金子を遣わした」
幸「えゝ其の勘定は確《しか》と心得ませんが五十金足らずかと心得ます、唯小菊の上へ掴み出して与えました事ゆえ勘定は確とは心得ませんが、残余《あと》の使い高に依って考えますと五十金足らずかと心得ます」
甲「うむ、此の者に貰ったに相違ないか、面体《めんてい》を覚えて居るか」
筆「其の夜《よ》は頭巾を被って在《いら》っしゃいましたからお顔は覚えませんがお声で存じて居ります、頂いたに相違ございません」
甲「うむ、
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