の長屋を支配なさる藤兵衞殿と仰しゃる仁《かた》かえ」
藤「ヘエ/\、ヘエ」
武「今|御尊家《ごそんか》へ出たよ」
藤「私《わたくし》の宅《うち》へ入っしゃいました、左様ですか、えゝ此者《これ》がその孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]と申す者」
武「はい始めまして、えゝ承れば当家《とうけ》でもとんだ災難で、何かその数寄屋河岸の柳番屋の蔭へ袖乞いに出た娘に、通り掛った侍が金子《かね》を呉れて、それが不正金で親子の者が、図らざる災難を受けたというは気の毒な事で、お前は嘸《さぞ》かし御心配な事で」
藤「へえ誠に心配致して居りますので、何うか分りますれば宜《い》いと思って居ります」
武「いやそれは心配には及ばん、明日《あした》私《わし》が其のお筆さんと云う娘《こ》を町奉行所へ訴え出て帰れるようにして遣る、其の金は己《わし》が遣ったんだ」
藤「へえー、左様で、それなれば何も仔細無い事で、何かお上でもお疑いがございまして、不正金とか何とか云う事を申すので困りましたが、誠にどうも殿様が下さいましたのなら何も仔細は有りません、孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と
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