も仏もないんで、此様な災難に罹《かゝ》るてえのは、あゝ私は死にたい」
 家「其様《そん》な気の弱い事を言ってはいけない、いか程|死度《しにた》いからって死なれる訳のものではない」
 と頻《しき》りに宥《なだ》めて居る処へ、門口から立派な扮装《なり》をして、色白な眉毛の濃い、品格《ひん》と云い容子《ようす》と云い先《ま》ずお旗下《はたもと》なら千石以上取りの若隠居とか、次三男とか云う扮装《こしらえ》の武家がずっと這入って参り、
 武「御免小間物屋孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さんのお宅《うち》は当家《こっち》かえ」
 家「はい、是は入らっしゃいまし、是は入らっしゃいまし」
 武家「はい、御免を」
 家「其処《そこ》は濡れて居りまして誠に汚のうございますが、サ、何《ど》うぞ此方《こちら》へ入らっしゃいまして……奥の喜兵衞《きへえ》さんが願って呉れたのだから…誠に有難う存じまして、斯《こ》ういう貧乏人の処へお出でを願いまして恐入りますが、能く来て下さいました、貴方は奥の喜兵衞さんから願いました、番町のお医者様で」
 武「なに私《わし》は医者じゃアないが、貴方は何かえ、此
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