さんなよ、涙を零《こぼ》して見っともねえ鬼の眼に涙だ」
△「鬼でも蛇《じゃ》でも構ア事アねえ、余《あんま》り口惜《くや》しいから云うんだ」
×「おい、止せてえ事よ」
話をして居ますると衝立《ついたて》の陰《かげ》からずいと出た武家《さむらい》は黒無地の羽織、四分一拵《しぶいちごしら》えの大小、胸高《むなだか》に帯を締めて品格《ひん》の好《い》い男、年頃は廿七八でもありましょう、色白で眉毛の濃い口許《くちもと》に愛敬の有る人物が、
武家「是は何うも大分《だいぶ》機嫌だのう」
△「えへゝゝ是は殿様………御免なさい、隣席《となり》にお在《い》でとも存じやせんで」
武「いや衝立の陰で先刻《さっき》から一盃やって居た、職人のお前達の話は又別段で」
△「えへゝゝ旨く云ってらっしゃるね」
×「殿様御免なすってから大きな声をして、此奴《こいつ》ア少し喰《くら》い酔ってるもんですから詰らん事を云って、何卒《どうぞ》お構いなく彼方《あちら》へお出でなすって」
武家「あはゝゝ馳走になろう、合《あい》をしよう、もう一銚子附けさせろ、身共も一盃馳走に成ろう」
△「えへゝゝ旨く云ってらア、殿様
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