まし、何《ど》うぞ此方《こちら》へお掛《か》けあそばしまして。客「エヽ私《わつし》は歌舞伎座《かぶきざ》の武田屋《たけだや》の兼《かね》てえもんでがすが、能《よ》く姐《ねえ》さんに叱《しか》られるんで、お前《めえ》のやうに茶屋《ちやや》の消炭《けしずみ》をして居《ゐ》ながら、さう世辞《せじ》が無《な》くツちやア仕《し》やうがねえから、世辞屋《せじや》さんへでも行《い》つて、好《よ》いのがあつたら二つばかり買《かつ》て来《こ》いツて、姐《ねえ》さんが小遣《こづけえ》を呉《く》れやしたから、何卒《どうぞ》私《わつし》に丁度《ちやうど》宜《よ》さそうな世辞《せじ》があつたら売《うつ》てお呉《く》んなせえな。主人「へい、芝居茶屋《しばゐぢやや》の若い衆《しゆ》さんのお世辞《せじ》だよ、うむ、其方《そのはう》が宜《よ》からう、エヽ此手《このて》では如何《いかゞ》でございます。と機械《きかい》へ手を掛《かけ》てギイツと巻《ま》くと中《なか》から世辞《せじ》が飛出《とびだ》しました。発音器「おや何《ど》うも是《これ》は入《い》らつしやいまし、何《ど》うもお早いこと実《じつ》に恐入《おそれいり》ましたねお宅《たく》から直《すぐ》に綱曳《つなツぴき》で入《い》らしつたツて、此様《こんな》にお早く入《い》らつしやるてえのは余《よ》ツ程《ぽど》お好《すき》でなければ出来《でき》ない事でエヘヽヽ先達《せんだつて》は番附《ばんづけ》の時に上《あが》りましたが、何《ど》うも彼所《あすこ》から入《い》らしつたかと思ふと実《じつ》に恟《びつく》りする位《くらゐ》なもので、私《わたくし》も毎度《まいど》参《まゐ》りますが何《ど》うも遠いのに恐入《おそれいり》ましたよ、へい御内室《ごしんぞ》さん此間《こなひだ》は誠に有難《ありがた》う存《ぞん》じます、エヘヽヽ私《わたくし》はね何《ど》うもソノお肴《さかな》が結構《けつこう》なのに御酒《ごしゆ》が好《よ》いのと来《き》てえませう、夫《それ》にまだ世間《せけん》には売物《ばいぶつ》にないと云《い》ふ結構《けつこう》なお下物《さかな》でせう何《なん》だか名も知らない美味物許《うまいものばかり》なんで吾知《われし》らず大変《たいへん》に酔《よ》つちまひました、夫《それ》ゆゑ何方様《どちらさま》へも番附《ばんづけ》を配《くば》らずに帰《かへ》つたので、大《おほ》きに姐《ねえ》さんから小言《こごと》を頂戴《ちやうだい》したり何《なん》かしました、へい嬢《ぢやう》さん入《い》らつしやいまし、何《ど》うも先達《せんだつて》の二|番目狂言《ばんめきやうげん》へ貴嬢《あなた》がチヨイと批評《くぎ》をお刺《さし》になつた事を親方《おやかた》に話しましたら、大層《たいそう》感心《かんしん》しまして実《じつ》に恐入《おそれい》つたものだ、中々《なか/\》アヽ云《い》ふ処《ところ》は商売人《しやうばいにん》だつて容易《ようい》に気《き》の附《つ》くもんぢやアないと云《い》ひました、何卒《どうぞ》打出《はね》ましたら些《ち》と三|階《がい》へ入《い》らつしやいまして、おや是《これ》は坊《ぼ》ツちやま入《い》らつしやいまし、アハヽまアお可愛《かあい》らしいこと、いえ何《ど》うも親方《おやかた》も駭《おどろ》いてましたし、表方《おもてかた》の者も皆《みな》感心《かんしん》をしてえるんで、坊《ぼつ》ちやんがアノ何《ど》うも長《なが》いダレ幕《まく》の間《あひだ》ちやんとお膝《ひざ》へ手を載《の》せて見て居《ゐ》らつしやるのは流石《さすが》は何《ど》うもお違《ちが》ひなさるツてえましたら親方《おやかた》がさう云《い》ひましたよ、夫《それ》ア当然《あたりめえ》よお前《まへ》のやうな痴漢《ばか》とは違《ちが》ふ、ちやんと勧善懲悪《くわんぜんちようあく》の道理《だうり》がお解《わか》りになるから飽《あ》かずに見て居《ゐ》らつしやるのだ、若《も》し其道理《そのだうり》が解《わか》らなければ退屈《たいくつ》して仕舞《しま》ふ訳《わけ》ぢやアないか、と云《い》はれて見ると成程《なるほど》と思つて愈々《いよ/\》恐入《おそれいり》ましたんでエヘヽヽちやんと何《ど》うも眼《め》も放《はな》さずに見て居《ゐ》らつしやるなんて本当《ほんたう》に違《ちが》ひますな、イエまだ早うごす、左様《さやう》でげすか、入《い》らつしやいますか、ぢやアお兼《かね》どんお蒲団《ふとん》とお煙草盆《たばこぼん》をヘイ行《い》つていらつしやいまし」。主人「エヽ此辺《このへん》では如何《いかゞ》でござります。客「エヽ是《これ》は宜《よ》うがす、ナニ一|両《りやう》だとえ大層《たいそう》安いね、お貰《もら》ひ申《まうし》て置《お》きやせう、小僧《こぞう》さんまた木挽町《こびきちやう》の方《はう
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