も方《ほう》が立たねえ、旦那何処へお出でなさるんで」
庄「まア最う少し遣ってくれ」
徳「もう少したって往《い》けませんな、何うもこの道じゃア」
庄「じゃア歩こう、まア此処に下《おろ》しておくれ、何うしたって金策に往くんだから、お願いだから提灯《ちょうちん》を持って、車は此処へ置いてお前一緒に往っておくれでないか」
徳「へい、それは何処へでも往きやすがな、私《わっち》にゃア………唯でさい歩き難《にく》い道だに、お前さん何処まで往くんだか知らねえが、困りますな何うも」
庄「だが好《い》い塩梅に少し小降《こぶり》になった」
徳「えい大きに小降に成ったが、何うも降りやすね何うも………旦那去年の九月四日の晩も此様《こんな》に降りましたな」
庄「うむ左様《そう》かなア、去年も降ったのだか覚えねえ」
徳「へん、降ったか覚えねえ、旨く云やアがる、妻恋坂下のね建部裏まで通りの客を挽いて往った時に、ぴしゃアりと提灯を切られた時に私《わっち》ア胆《きも》を潰して、あの建部裏の溝《どぶ》におっこッちまった、好《よ》い塩梅に少し摺剥《すりむ》いたばかりでたんと負傷《けが》はしないが、泥ぼっけえ、寒くて仕方がねえ
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