時までもねエ其の人が知れねえんだ、まア持ち腐れじゃア詰らねえから、旦那御紋所がちゃアんと合って……五十円」
庄「馬鹿ア云っちゃアいけねえ」
美代「お止《よ》しなさいな、お止しよ………車夫《くるまや》さん大概におしよ、五十円なんて誰《たれ》が人馬鹿々々しいじゃアないか、金鈍子《きんどんす》か何かの丸帯が買えるわ」
車「帯は買えるんでしょうが、これは煙管の紋が………そりア一寸《ちっと》宜《い》いので」
美「宜いのでたって、そんな高い煙管や何か買える訳のもんじゃアない、だから、あなたお止しなさいよ、(車屋に向い)まア宜いよ」
車「無理に私《わっち》アお上げ申すという訳じゃございませんので、私がこれまで持って居たのは悪いから、それだけ叱られて仕舞いさいすりア……斯ういう訳でがす、私ア酷《ひど》い目に逢いました、建部の側《わき》で私ア溝《どぶ》の中に転がり落ちて何うも物騒で、雨の降る中びしゃアりという訳で、何うも……なアに人てえ者は見掛けに依らねえもんで、まア私は訴えますから」
庄「まア/\宜い、若衆《わけいし》さん、買う買わねえは兎も角も一杯《いっぺえ》此処で飲みねえ、お前《めえ》も何だろう、
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