しく出《で》の紋附を染めるとか、長襦袢を拵《こしら》えてやるの、小間物から下駄|穿物《はきもの》に至るまで支度を致すというので、大した金の入《い》るものでございます。婆《ばゞあ》は少し借財の有る処で身請というから、先ず是で宜《よ》いと喜んだ甲斐もなく、打って違って奧州屋新助は腹を切って死んだと云うので、ぱったり目的が外れました。是から歳暮《くれ》に成りますると少し不都合で愚痴《ぐず》ばかり云っている処へ、幇間《たいこもち》の三八、
三「お母《っか》さん今日《こんち》は」
婆「おやお這入んなさいまし」
三「押詰りまして」
婆「何うも月迫《げっぱく》に成りました、誠に何うも寒い事ねえ、暮の二十五日だからねえ、時々|忘年《としわすれ》のお座敷なぞが有るかえ」
三「有るにア有るけれども、昔と違って突然《だしぬけ》に目的《あて》が外れたりして極りが無いから困りますのさ」
婆「けれどもお前なぞは気楽で宜《い》いじゃアないか」
三「気楽でも何でも無いのサ、何うも只《たっ》た一人者でも雇婆《やといば》アさんの給金も払うなにが無《ね》えんで、勘定というものは何処にも有るもんでげすが、暮はいけませんねえ、
前へ 次へ
全113ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング