、何だい」
男「何だって人間だい」
福「冗談云うねえ、今店を明けたばかりの処で其処へ突立《つッた》って邪魔して居ちゃアいかん、何だア銭貰い」
男「失敬極まる事をいうな……これ銭貰いとは何だ……さ当家の家内に逢いたいんだから是れへ呼んでくんな……おふみを是れへ呼べ」
福「何うもこれは何だろう……お前は一体|何処《どこ》のものだい」
男「何処も何もあるものか、人力車夫の徳藏《とくぞう》という者だと云やア解るから呼んでくれ」
福「呆れて物が云われない、何だって車夫《くるまや》が此処に来てお内儀《かみ》さんに逢いたいてえのは何ういうわけだ……何ういう縁故をもって云うのだ」
徳「縁故の無い処に云うものか、当家のふみと血を分けたお兄《あにい》さまで大西徳藏[#「徳藏」は底本では「徳造」]という者だと云やア分る」
福「はゝあ是れが兄貴のわんちゃん[#「わんちゃん」に傍点]者だ」
 と番頭も分りましたから、
福「今お内儀さんはお加減が悪くて寝《やす》んで居ります………誠にお生憎様《あいにくさま》で」
徳「なにお生憎様てえ事が有るものか、塩梅が悪きゃア奥へ通って逢おう、盥《たらい》へ水を汲んでくれ、足を
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