た》に参りますと、見送った新助は血《のり》に染ったなりひょろ/\出て、向うの中坂下《なかざかした》について、あの細い横町《よこちょう》の方《ほう》に参り、庄三郎に突かれたなり右の手を持ち添えて、左から一文字にぐうッと掛けて切った、此方《こっち》(左)の疵口《きずぐち》から逆に右の方へ一つ掻切《かっき》って置いて、気丈な新助、咽喉《のど》を一つぷつうりと突いて倒れました。左様なことは些《ちっ》とも知りませんのは奧州屋新助の女房、昨夜《ゆうべ》は新助が帰らんと云うので、
女「旦那さまがお帰りが無いから、早くお前店を開けて、万事気を附けておくれ」
 福松《ふくまつ》という店を預かっている若者が指図をして、店の飾り附をして居ると、門口へ来ました男は穢《きた》ないとも穢なく無いとも、ぼろ/\とした汚れ切った毛布《けっとう》を巻き附けて、紋羽《もんぱ》の綿頭巾を被って、千草《ちくさ》の汚れた半股引を穿《は》き、泥足|草鞋穿《わらじばき》の儘|洋物屋《とうぶつや》の上《あが》り端《はな》に来て、
男「御免を蒙《こう》むる」
福「今|其処《そこ》へ来ちゃアいけない…来ちゃアいけない……今店を出す処だに
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