掴まえて慣れない奴が持上げて、ごろ/\引出したが、何うも思うように走りません。
車夫「はい/\」
幾らか頂戴したら早く引きますと云わぬばかりに故意《わざ》と鈍《のろ》く引出し、天神の中坂下《なかざかした》を突当って、妻恋坂《つまごいざか》を曲って万世橋《よろずばし》から美土代町へ掛る道へ先廻りをして、藤川庄三郎は、妻恋坂下に一万石の建部内匠頭《たてべたくみのかみ》というお大名が有ります、その長家《ながや》の下に待って居ましたが、只今と違ってお巡りさんという御役が有りません、邏卒《らそつ》とか云って時々廻る方《かた》が有った時分で、雨はどっと降出して来ましたから、往来はぱったり止って淋しい秋の雨で、どん/\降る中をのた/\やってまいる所を、待伏《まちぶせ》をして居りました庄三郎が、いきなり飛出して提灯を斬って落す。
車夫「あッ」
と梶棒を放して車夫《くるまや》が前へのめったから、急に車の中から出られません、車夫は逃げようとして足を梶棒に引掛《ひっか》け、建部の溝《みぞ》の中へ転がり落ちる。庄三郎は短刀を振翳《ふりかざ》し、
庄「覚えたか」
と突掛けて来ますると、覗《ねら》い違《たが
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