いたよ」
美「毎度有難う存じます」
三「何か旦那の召上り物を何うかお早く」
婆「此処らでは鳥八十《とりやそ》さんが早いから、彼処《あすこ》へ往って何か照り焼か何かで、御飯《ごはん》を上るのだから色取をして然う云って来なよ、宜《よ》いかえ、御飯は家《うち》のは冷たいから暖《あった》かいのを三人前に、お香物《こう/\》の好《い》いのを持って来るように然う云ってくんな、あれさ家のは臭くていけないから、これさ人のいう事を宜く聞きなよ、それからお菓子を、なに落雁じゃアないよ、お客様だから蒸菓子の好いのを」
 と下女に云附け、誂《あつら》え物の来る内、何か有物《ありもの》でちょいとお酒が出ました。この奧州屋の新助《しんすけ》は一体お世辞の善《よ》い人で、芸者や何かを喜ばせるのが嗜《す》きな人だから、何か褒めようと思って方々《ほう/″\》見廻したが、何も有りません。三尺の壁床《かべどこ》に客の書いたものが余り宜い手では無く、春風春水一時来《しゅんぷうしゅんすいいちじにきたる》と書いてあり、紙仕立《かみじたて》の表装で一|幅《ぷく》掛けてありますが、余り感心致しません。其の傍《そば》の欄間に石版画の額
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