メ|思召有之候《おぼしめしこれありそうろう》に付、遠島中軽々しく取扱い申すまじく候事、町奉行公用人某印」
 としてあります。さア其の頃の事でございますから、町奉行公用人の裏書は中々幅の利いたものでございます。一同顔を見合せましたまゝ別に評議もいたしませぬが、以心伝心で文治に十分の利を持たせ、結句平林は自業自得、殺され損ということに落着《らくちゃく》いたしました。尚《な》お別席に於て諸役人一同評議の上、文治を呼び出して、「今日《こんにち》より右平林の後役《あとやく》は其の方に申付けるによって役宅に住《すま》い、不都合なきよう島内|囚人《しゅうじん》の取締を致せ、下役人一同左様心得ませえ」との有難き言渡しでございます。文治は恐入って両三度辞退いたしましたが、お聞済《きゝずみ》がございませぬから、余儀なくお請け致しました。文治は上々の首尾にて白洲を引取り、何《ど》うなる事かと心配して居りました徒党の囚人《めしゅうど》一同に向いまして、
 文「各々方《おの/\がた》お悦び下さい、拙者は軽くって切腹、重くって縛り首と覚悟してお白洲へまいりしところ、上《かみ》のお慈悲を以て罪をお免《ゆる》し下され
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