齔l《いちにん》であると申すか」
 文「御意にござります」
 役「然《しか》らば其の方を召連れ吟味致さねばならぬ、一同の者、文治の吟味中、謹んで居《お》ろうぞ、立ちませえ」
 と文治|一人《いちにん》を連れて役所へまいりますと、続いて地役人一同も引上げました。これは江戸役人の頓智《とんち》で、死物狂いの囚人を残らず召捕《めしと》ろうと致しますと、どんな騒動を仕出来《しでか》すかも知れませぬ故、一時其の場を治めるために態《わざ》と文治|一人《いちにん》を引立てたのでございます。さて江戸役人島役人立会いにて、文治を白洲へ引出し、吟味いたしますと、全く平林が非道の扱いに堪《た》え兼て、囚人一同徒党を組んで暴れ出したという事が分りました。そればかりではございませぬ、平林という奴は誠に横着《おうちゃく》な奴で、平生罪人の内女の眉目《みめ》好《よ》き者がありますと、役柄をも憚《はゞか》らず妾《しょう》にするという、現に只今でも一人《ひとり》囲い者にして男児を設けたということでございます。それに引換えて文治の罪状|送書《おくりがき》を見ますと、下《しも》のような裏書《うらがき》があります。
 「右の
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