V兵衞はホロ/\涙を流しながら、
新「旦那様、これが一生のお別れかと思うと、何《ど》うも此の身体が……申上げたいことは山々ございますが、何から申上げて宜しいやら……これはお餞別《せんべつ》でござります、何うか御受納下さいますよう」
と五十両の小判を文治の懐中へ入れようと致しまする。側に居ります同心は一応|検《あらた》めて罪人に渡しまするが掟《おきて》でございますから、横合《よこあい》から手を出して取ろうと致しますると、亥太郎が承知いたしませぬ。
亥「やい同心、刃物や火道具じゃア有るめえし、引《ひ》ッ奪《たく》るには及ぶめえ、何《なん》だと思う金じゃアねえか、さア己《おれ》が検めて見せてやろう、此の通りだ、何も不都合はあるめえ、旦那、お懐《ふところ》へ入れますよ」
文「新兵衞殿、何よりのお餞別、何時《いつ》に変らぬ御親切、御恩誼《ごおんぎ》は決して忘却致しませぬ」
と言葉の切れぬ中《うち》に法螺貝《ほらがい》の音ブウ/\/\。文治が船に足を掛けるや否《いな》や、はや船は万年橋の河岸を離れました。船中に居ります罪人は何《いず》れも大胆不敵の曲者《くせもの》でありますが、流石《さす
前へ
次へ
全222ページ中62ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング