コを挙げて、
 新「業平橋の旦那ア、業平橋の旦那ア」
 役「これ/\静かにしろ、控えろ」
 と突退けますので、此方《こっち》から潜《くゞ》って往《い》こうとしますると又突退けられます。向うに亥太郎と文治の姿が見えながら近寄ることが出来ませぬ。新兵衞はふと一策を案じて懐中から金入《かねいれ》を取出し、物をも云わず掴出《つかみだ[#「つかみだ」は底本では「つかだ」と誤記]》しては横目や同心に水向け致しまするが、同心どもは金の欲しいは山々なれども、仲間《ちゅうげん》や重役の前を憚《はゞか》って顔と顔を見合せて居ります。気が急《せ》かれます故、新兵衞は突然《いきなり》一分銀《いちぶぎん》を一掴みパラ/\と撒付《まきつ》けますと、それ金が降って来たと、餓虎《がこ》の肉を争う如く金を拾わんと争う間を駈抜けて文治の前へまいりまして、
 新「旦那様、お情ないお姿におなりなさいましたな」
 文「新兵衞殿、ようお出で下された、かく成り果《はつ》るも自業自得、致し方がござらぬ、最早出帆の時刻、お役人にお手数《てすう》をかけては相済まぬから、早くお帰り下さい」
 役「其の方《ほう》は何者じゃ、控えて居れ」
 
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