sど》うも飛んだ事になりましたなア」
と鬼を欺《あざむ》く亥太郎も是が一生の別れかと、わッとばかりに泣出しました。附添の同心も予《かね》て亥太郎の事は承知して居りますから、
同心「やア亥太郎が始めて泣きやアがったぜ、大きな口だなア、其の癖手放しで泣いて居やがらア、アッハヽハヽ、さア/\もう宜《よ》かろう」
亥「えゝ未《ま》だ何《なん》にも云やしねえ、ぐず/\しやがると死者狂《しにものぐる》いだぞ、片ッ端から捻《ひね》り殺すからそう思え」
文「これ/\亥太郎殿、お上《かみ》の御法を犯しては成りませんぞ、何事も是までの因縁と諦めて、随分達者にお暮しなさい」
亥「お前さんばかり口がきけて私《わっち》にゃア少しもく、く、口がきけねえ、旦那、達者でいて下せえよ」
此処《こゝ》へ大橋の方から前橋《まえばし》の松屋新兵衞《まつやしんべえ》が駈付けてまいりましたが、人ごみで少しも歩けませぬ、突退《つきの》け撥返《はねかえ》し、或《あるい》は打たれ或は敲《たゝ》かれ、転がるように駈出しましたが、惜《おし》いかな罪人はあらまし船に乗って、今一度の貝の音でいよ/\出帆するのであります。新兵衞は大
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