の内佐渡は水掻人足《みずかきにんそく》と申しまして、お仕置の中《うち》でも名目《みょうもく》は宜《よ》いのでござりますが、囚人《めしゅうど》の身に取っては一番|辛《つら》い処でありますから、滅多に長生《ながいき》する者はございませぬ。今文治が遠島と極りましたのは三宅島でございます。いよ/\船が万年橋から出るという前夜になって、親戚|故旧《こきゅう》の人に知らせますので、当日は親類縁者は申すに及ばず、友人達は何《いず》れも河岸に集って身寄の囚人を待受けて居ります。其の内に追々囚人が送られてまいりますが、中には歩けませんで畚《もっこ》に乗って参る者もございます。文治は成るたけ人に逢わぬように、俯向《うつむ》いて目立たぬように小さくなってまいりましたが、國藏が早くも見付けまして、
 國「やア旦那々々」
 文「國藏か、よく来てくれたな、皆《み》んな達者で居《お》るだろうな」
 國「へえ、皆《みん》な達者ですが、旦那、何故《なぜ》私《わっち》を代りにやってくれねえんです、やい森松、早くお町様をお連れ申せ」
 文「こりゃ國藏|何故《なにゆえ》に町を連れて来たか、此の姿を女房に見せて己《おれ》に恥を
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