伝《もうしつた》えて下さい」
 両「よく分りました、じゃア仰せに従って諦めましょう、けれども御新造様も私《わっち》どもと一緒に、お別れに只《たっ》た一目お逢いなせえまし、此の世の名残《なご》りに往《い》かっしゃるのに、何《なん》ぼ御気象の勝《すぐ》れた旦那だって、人情を知らねえ事アありますめえ、何《なん》とも仰しゃる気遣《きづかい》はありゃアしませんや、ねえ旦那」
 喜「如何《いか》にも……就《つい》てはお町殿、せめて遠目でなりとも」
 町「万年橋とやら申す橋より船までは余程離れて居りますか」
 國「へえ、僅《わず》か半丁ばかりしか離れて居りません」
 町「それでは其の橋の上から旦那の心付かぬように、余所《よそ》ながらお別れいたしましょう」
 喜「成程、それが宜《よろ》しゅうござろう、各々《おの/\》文治殿には見知られぬよう気を付けてやって下さい」
 両「承知いたしました」
 お話分れて、本所大橋向うの万年橋、正木稲荷《まさきいなり》の河岸《かし》は、流罪人《るざいにん》の乗船《のりふね》を扱いまする場所でござります。尤《もっと》も遠島と申しますのは八丈島、三宅島《みやけじま》にて、其
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