ア其処《そこ》です、文治殿こそは日本《にっぽん》に二三とあるまじき天晴《あっぱれ》名士と心得ますが、何《ど》うでござるな、その日本名士が上州あたりの長脇差や泥坊が、御法度《ごはっと》を犯して隠れている汚《よご》れた国へまいりますか、よもや文治殿はそんな拙《つたな》い者ではありますまい、よしまた往《ゆ》くとしても、生涯|山中《さんちゅう》に隠れ潜《ひそ》んで、埋木《うもれぎ》同然に世を送るような人物とは些《ち》と肌が違いましょうぞ、左程逃げたき文治殿ならば、友之助が無実の罪に服したのを幸いに、のめ/\と宅《たく》に居て知らぬ顔をしていましょう、友之助を助けようが為に自分の一命を差出して明白に上《かみ》のお裁きを仰ぐくらいの名士、そんな端《はし》たない者ではござりませんな」
と云われて亥太郎と國藏は眼ばかりパチ/\やって居ります。
十二
藤原喜代之助は尚《なお》も言葉を継いで、
「こゝで文治殿が一度逃出せば、生涯悪人の汚名を負わなければ成らぬ、そんなむずかしい事を云っても分りますまいが、天網恢々《てんもうかい/\》疎《そ》にして洩らさず、其の内に再び召捕《めしと》られたら、い
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