の留守宅へ知らせる事が出来ませぬ。漸《ようや》く其の日の夕方文治の宅へまいりまして、
喜「えゝ頼みます」
町「はい……おや藤原様でございますか、さア何《ど》うぞお上《あが》り下さいまし、まア暫《しばら》くでございました、何うぞ此方《こちら》へ」
喜「存外御無沙汰いたしました」
町「手前の方でも御存じの通り種々《いろ/\》心配がございますので、思いながら御無沙汰いたしました」
という声も涙声、母には死なれ、頼みに思う夫は揚屋入《あがりやい》り、後《あと》に残るのは其の身一人ですから、思えばお町の身の上は気の毒なものでございます。
十一
喜代之助は云い出しにくそうに、
喜「さて、今日《きょう》参りましたのは、えゝ……いや、どうも誠に御無沙汰いたした、就《つ》きましては……」
町「もし藤原様、あなたは文治の事でお出《い》で下すったのではございませんか」
喜「さゝ左様」
町「さア何《ど》うなりました藤原様え……藤原様、文治が命に別状でもありはしませぬか、ねえ藤原様」
喜「いえ、お命に別条はござらぬが、只《たゞ》……」
町「藤原様、何《ど》うぞお早く仰しゃって下さ
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