奉行は少し進み出でまして、
奉「本所業平橋当時浪人浪島文治郎、去《さん》ぬる六月十五日の夜同所北割下水大伴蟠龍軒の屋敷へ忍び込み、同人舎弟なる蟠作並びに門弟|安兵衞《やすべえ》、友之助妻|村《むら》、同人母|崎《さき》を殺害《せつがい》いたし、今日《こんにち》まで隠れ居りしところ、友之助が引廻しの節、自分の罪を人に嫁《か》するに忍びず、引廻しの馬を止め、蟠龍軒の屋敷に於て数人の家人を殺害いたしたるは全く自分の仕業なりと、自訴に及びたる次第は前回の吟味によって明白であるが確《しか》と左様か」
文「恐れながら申上げます、再応自白いたしましたる通り全く文治の仕業に相違ございませぬ」
奉「うむ、何《なん》らの遺恨あって切殺したか其の仔細を申立てえ」
文「申上げ奉ります、大伴蟠龍軒なる者が舎弟蟠作と申し合せ、出入《でいり》町人友之助を語らい、百金の賭碁を打ち候由、然《しか》るに其の勝負は予《かね》て阿部忠五郎と申す碁打と共謀して企《たく》みたる碁でございますから、友之助は忽《たちま》ち失敗いたしました、然《しか》し百両というは大金、即座に調達《ちょうだつ》も出来兼《できかね》ます処から、
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