も不覚であったの、それから何《ど》う致した」
 と膝を突付《つきつ》け、耳を欹《そばだ》てゝ居ります。

  八

 喜代之助は其の当時の事を想い起したものと見えまして、口惜《くや》し涙に暮れながら、
 喜「悪事というものは隠す事の出来ぬものと見えます、母は手前にさえ一言も話さぬ位ですから勿論《もちろん》隣家の者などに話す気遣いはございませぬが、何時《いつ》しか隣家の者が聞付けて、お淺さんも邪慳な事をなさる人だ、あのような辛抱強い年寄を、何が憎くって乾殺そうという了簡になったのだろう、お気の毒な事だ。と云ってお淺の不在を窺《うかゞ》い、親切にも粥《かゆ》か何かを持参致しました所へ、生憎《あいにく》お淺が帰ってまいりまして、烈火の如く憤《いきどお》り、いきなり其の食器を取って母の眉間《みけん》に打付け、傷を負わせました、其の時文治殿は何処《どこ》で聞付けましたか其の場に駈付けてまいりまして、義理ある親を乾殺そうとは人間業でない、此の様な者を生かして置いては此の上どんな邪慳な事を仕出来《しでか》すかも知れぬと云って、お淺を取って押えて口を引っ裂き……いや私《わたくし》が其処《そこ》へ帰って
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