を御推察を願います」
右「して、そちの母の命の恩人と申すは」
喜「左様でござります、手前が浪人中、別に一文の貯《たくわ》えあるでは無し、朝から晩まで内職をして其の日/\の煙を立てゝ居りました、それが為に手前は始終不在勝でございまして、家内の事は一切女房に任せて置きましたのが手前の生涯の過失《あやまち》でございます、女房のお淺と申します者が、手前の居ります時はちやほや母に世辞をつかいます故、左程|邪慳《じゃけん》な女とも思いませなんだが、不在を幸いに只《たっ》た一人《いちにん》の老母に少しも食事を与えませず、ついには母を乾殺《ほしころ》そうという悪心を起して、三日半程湯茶さえ与えず、母を苦しめました」
右「フーム、世には恐ろしい奴もあるものじゃの、そちは何か、内職から帰ってそれを知らなかったのか」
喜「何《なん》とも恐入った次第でございますが、母は当年七十四歳、手前などと違い余程覚悟の宜《よ》い母でございまして、食を絶って死のうという覚悟と見えまして、只病気とのみ申し打臥《うちふ》したまゝ一言《いちごん》も女房の邪慳なことを口外致しませぬ故、一向心付かんで居りました」
右「そち
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