になりまして、
右京「これ、喜代之助を呼べ」
近習「はゝア、喜代之助殿、御前のお召《めし》でござる」
喜「はゝア」
右「喜代之助、近《ちこ》う進め」
喜「はゝア」
右京殿は四辺《あたり》を見廻し、近習《きんじゅ》に向い、
右「暫く遠慮いたせ」
お人払いの上、喜代之助にお向いなされ、
右「喜代之助、そちを呼んだのは別儀ではないが、今日予が下城の節、駕籠訴いたした者がある、それは本所業平橋の料理屋立花屋源太郎と申す者であるが、そちは浪人中業平橋辺に居ったそうじゃのうあの辺の事はよう存じて居ろう、いつぞや閑《ひま》の折に文治という当世に珍らしい侠客があると云ったのう、その文治と申す者は一体|何《ど》ういう人間か」
喜「申上げます、彼は母の命の親とも申すべきもので、近年|稀《まれ》な侠客でござります」
右「フーム、侠客か、一体文治の平生《へいぜい》の行状は何《ど》んなものじゃ」
喜「御意にございます、先ず本所にて面前にては申すに及ばず、蔭にても文治と呼棄《よびずて》にする者は一人《いちにん》もござりませぬ、皆文治様々々々と敬《うやも》うて居ります、これにて文治の人となり
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