治郎其の方ことは吟味中|揚屋入《あがりやいり》を申付ける」
 左右に居ります縄取《なわとり》の同心が右三人へ早縄を打ち、役所まで連れ行《ゆ》きまして、一先《ひとま》ず縄を取り、手錠を箝《は》め、附添《つきそい》の家主《やぬし》五人組へ引渡しました。手錠と申しますと始終箝めて居《お》るように思召《おぼしめ》す方もあるか知れませぬが、そうではございませぬ。錠の封印へ紙を捲《ま》き、手に油を塗ってこれを外《はず》し、只吟味に出ます時分又自分で箝めてまいりますだけの事でございます。こゝに松平右京殿、御下城の折柄《おりから》駕籠訴《かごそ》を致した者があります。これは御登城の節よりかお退《さが》りを待って訴える方が手続が宜しいからであります。お駕籠先の左右に立ちましたのはお簾先《すだれさき》と申します御家来、または駕籠の両側に附添うて居りますがお駕籠脇《かごわき》、その後《あと》がお刀番でございます、これは殿中《でんちゅう》には御老中と雖《いえど》もお刀を佩《さ》すことは出来ませぬ、只脇差ばかりでございます。それ故お刀番がお玄関口にてお刀を預り、御退出の折に又これを差上げます為にまいりますので、
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