この亥太郎を御処分下せえ」
 國「恐れながら國藏申上げます、その六月十五日夜は私《わし》が切込みまして殺したのでござんす、何《ど》うぞお仕置き下さいますよう」
 森「兄イ、何を云うんだ、蟠龍軒の家《うち》へ切込んだのは誰でもねえ、この森松がやッつけたんで」
 亥「やい、森松、國藏、何を云やがる、お奉行様、此奴《こいつ》らア気が違ったんです、私に相違ございません」
 役「其の方ども控えろ控えろ」
 つくばいの同心は赤房《あかぶさ》の十手《じゅって》を持って皆々の肩を突きましたが一向に聞入れませぬ。お取上げがないので三人とも立上って頻《しき》りに罪を背負《しょ》おうと焦《あせ》って居ります。時に文治が、「これ一同静かにしろ」と睨《にら》み付けられてピタリと止って、平蜘蛛《ひらぐも》のようになって居ります。
 文「恐れながら文治申上げます、此の者どもが御場所柄をも弁《わきま》えず大声《おおごえ》に罪を争います為態《ていたらく》、見るに忍びず、かく申す文治までがお奉行職の御面前にて高声《こうせい》を発したる段重々恐れ入ります、尚《な》お此の上|一言《いちごん》申し聞けとう存じます故、御免を願い
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