れ、今日《きょう》まで惜《おし》からぬ命を存《なが》らえていたが、もうお母様《っかさま》を見送ったからにゃア後《あと》に少しも思い残すことはない、此の上は罪に罪を重ねても貴様を助けにゃア己《おれ》の義理が立たない、さアお役人衆《やくにんしゅ》、お手数《てかず》ながら此の文治に縄を打って、友之助と共に奉行所へお引立て下せえ、それとも乱暴者と見做《みな》し此の場に切捨てるというお覚悟なら、遺憾ながら腕の続く限り根《こん》限りお相手致します、如何《いか》に御処分下さるか」
 と詰寄せまする。橋の上から四辺《あたり》は一面の人立《ひとだち》で、往来が止ってしまいました。
 甲「こゝは往来だ、何を立っていやがるのだえ、さア/\歩け歩け」
 時に亥太郎國藏の両人口を揃えて、
 「静かにしろ、ぐず/\すると打殺《ぶちころ》すぞ」
 野次馬「やア豊島町の乱暴棟梁だ、久しく見掛けなかったが、また始めたぞ」
 流石《さすが》の与力も文治と聞いて怖気付《おじけつ》き、一先《ひとま》ず文治と友之助の両人を江戸橋の番屋へ締込みましたが、弥次馬連は黒山のようでございます。表に居りました亥太郎、森松、國藏は躍起《や
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