最中《まっさいちゅう》、まして物見高いのは江戸の習い、引廻しの見物山の如き中に裃《かみしも》着けたる立派な侍が、馬の轡に左手《ゆんで》を掛け、刀の柄《つか》へ右手《めて》を掛けて、
 文「さア一歩も動かすことは成らぬ、無法かは知らぬが、此の友之助は決して罪人ではない、その罪人は此の文治だア」
 与「これ/\何《なん》であろうと此の通り当人が白状の上、罪の次第が極《きま》ったのじゃ、今となっては致し方がないわ、其処《そこ》退《の》けッ」
 文「いかさま無法ではござるが、狂人ではござらぬ、一寸《ちょっと》も放すことは出来ませぬ」
 と七人力の文治が引留めたのでございますから、如何《いかん》とも致し方がございませぬ。馬上なる友之助は何事か夢中で居りましたが、暫くして漸《ようや》く我に返りまして、
 友「えゝ旦那様でござりますか、お久しくござります」
 文「友之助、よく生きていてくれたなア、貴様が此の様な目に逢うとは夢にも知らなんだ、さぞ難儀したろうな、此の文治は自分の罪を人に塗付け、のめ/\生きて居《お》るような者ではないぞよ、目指す相手の蟠龍軒を討洩らし、心当りを捜す内、母の大病に心を引か
前へ 次へ
全222ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング