Aれ危えッてば」
 こゝぞと文治は打込もうと隙を窺《うかゞ》って居りますと、蟠龍軒は其の切っ先に怖れてか、じり/\後《あと》へ退《さが》ります。
 見物「やア親爺《おやじ》、後《うしろ》は川だぞ、もう一足《ひとあし》で川だ、馬鹿野郎」
 と口々に呶鳴《どな》り立てられて、元来卑怯未練な蟠龍軒、眼が眩《くら》んだと見えまして、五分《ごぶ》の隙もないのに滅茶苦茶に打込みました。文治はチャリンと受流し、返す刀で蟠龍軒の二の腕を打落しました。やれ敵《かな》わぬと逸足《いちあし》出して逃出す後《うしろ》から、然《そ》うはさせじと文治は髻《たぶさ》を引ッ掴《つか》み、ずる/\と引摺り出して、
 文「さアお町、親の敵存分に怨《うら》め」
 町「はい……おのれ蟠龍軒、よくも我が父を殺せしよな、汝《おのれ》如き畜生のために永い月日の艱難苦労、旦那様は入牢《じゅろう》まで致したぞよ」
 と胸元目がけて一太刀打込みますると、
 文「お町待て、これ蟠龍軒、よくも今まで達者で居てくれたの、斯《こ》うなるからは最早怨みはないぞ、静かに往生しろよ、死後には必らず香華《こうげ》を手向《たむ》けて遣《つか》わすぞ」
 
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