ノも亥太郎は躍起《やっき》となって、
亥「さア人面獣心《にんめんじゅうしん》、逃げるなら逃げて見ろ、五体を微塵《みじん》に打砕《うちくだ》くぞ」
文「大伴氏、最早逃げようとて逃すものでない、積る罪業《ざいごう》の報いと諦めて尋常に勝負せい、お町、其方《そち》少し下《さが》って居れよ」
相手は大勢《おおぜい》、蟠龍軒は隙《すき》あらば逃げたいのは山々でござりますが、四辺《あたり》は一面土手を築《つ》いたる如く立錐《りっすい》の余地もなく、石川土佐守殿は忍び姿で御出馬に相成り、与力は其の近辺を警戒して居ります。尚お右京殿の使者も忍び姿にて人込みの中に紛《まぎ》れ込み、藤原其の他二三の侍も固唾《かたず》を呑んで見張って居りまする。文治は静かに太刀を抜放ち、
文「さア大伴氏、其許《そこもと》は舅の敵の其の上に、よくも此の文治が面部に疵《きず》を負わし、痰唾《たんつば》まで吐き掛けたな、今日こそ晴れて一騎討の勝負、疾《と》く/\打って来い」
蟠龍軒はぶる/\総身《そうみ》に震いを生じ、すらりと大刀抜くより早くお町の方を目がけて一太刀打込みました。
文「何をするッ」
と文治は横合より
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