sお》る侍の笠を取ろうと手を掛けますと、一人は其の場を外《はず》して逃げようとする後《うしろ》から、立花屋の忰が怖々《こわ/″\》ながら渋団扇で合図をいたしました。
亥「それッ」
と亥太郎は飛び掛って笠へ手をかける、其の手を取って捩上《ねじあ》げようと致しましたが、仮にも十人力と噂のある左官の亥太郎、只今でも浅草代地の左官某が保存して居《お》るそうですが、亥太郎が常に用いました鏝板《こていた》は、ざっと一尺五六寸、軽子《かるこ》が片荷《かたに》程の土を其の板の上に載せますと、それを左に持ちまして、右の手で仕事をすると申します。斯程《かほど》の大力《だいりき》ある亥太郎、なか/\一人や二人の力で腕を捩上げるなどという事の出来るものではござりません。
亥「この三一《さんぴん》め、生意気なことをするな」
と忽《たちま》ち其の手を捩返しました。ところへ文治が駈《は》せ寄って亥太郎の腕を押え、
文「亥太郎殿、こんな事があろうと思えばこそ、あれ程頼んだではないか、お控えなさい」
亥「へえ/\」
文「御免」
と其の侍の笠に手をかけ、ぽんと※[#「※」は「てへん+毟」、414−9]《む
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