Aなるたけ人に知れぬよう、万一逃がしたら百日の何《なん》とやら、そう事が分ったら一盃《いっぱい》やりましょう、これ町や」
 亥「いや、私《わっち》ア酒は絶って居りますから」
 文「はて、それは又|何故《なぜ》に」
 亥「それだから少しゃア手伝わして下さいと云うんです」
 文「いや、それ程に思ってくれる御親切は辱けないが、武士の面目《めんぼく》に関わるから」
 亥「えゝ宜《よ》うがす、御機嫌宜う、十四日にゃア一生に一度の楽《たのし》み、早朝から見物にまいりやしょう」
 文「左様なら」
 亥太郎は表へ出まして、
 亥「あゝ、いつに変らぬ武士の魂、当世に二人とねえ男だなア」
 入れ違いに藤原喜代之助が入って参りまして、
 喜「文治殿、藤原でござります、先程から亥太郎殿がおいでの様子ゆえ少々控えて居りました、数年御苦労の甲斐あって此度《こんど》の悦び、お察し申上げます」
 文「ようこそお出で下さいました、是に過ぎたる悦びはござりません、今日までの御助力有難うぞんじます」
 喜「時に文治殿、予《かね》てお話の小野|氏《うじ》の脇差、中身は確か彦四郎定宗と覚え居りますが、拵《こしら》えは何《なん》
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