g、外《ほか》の者に頼むわけにまいらぬから、御苦労でも一寸《ちょっと》松平右京殿のお屋敷まで」
 主「はい、あの藤原喜代之助様のお屋敷」
 文「左様、この手紙を御持参下さい」
 主[#「主」は底本では「文」と誤記]「へえ/\畏《かしこま》りました」
 ところへまた亥太郎が参りまして、
 亥「へえ、亥太郎でございます」
 文「おゝ、亥太郎殿か、さア/\此方《こちら》へ」
 亥「まア御機嫌ようござんす」
 文「亥太郎殿、一寸《ちょっと》奥へ……さて亥太郎殿、文治が改めて申入れる」
 亥「へえ、何事でござんすか」
 文「これまで永らく兄弟同様の縁を結びまして何から何までお世話にあずかりましたが、此の後《ご》この文治の頼むことを屹度《きっと》お聞済み下さるか」
 亥「さりとは又改まった御口上《ごこうじょう》、へえ旦那のいう事なら何《なん》でも聞きましょう、命に懸けても」
 文「千万辱けのう存じます、さて亥太郎殿、かく申す文治は此の度《たび》一生に一度の悦ばしい事が出来ました」
 亥「そいつア有難《ありがて》え」
 文「その悦びと申すは外《ほか》ではない、敵《かたき》蟠龍軒が壮健で居りますぞ」

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