Tそれは何方《どちら》へ」
女「花見がてら權三郎方へまいりました」
文「それは何時《いつ》の事で」
女「今日のことでございます、此の十四|日《か》に松平様とかのお役人様方をお連れ申すから、八九人前の膳部《ぜんぶ》を整えて置くようにというお頼みでございます」
文「ウム」
女「私《わたくし》は他事《ひとごと》とは云いながら、命の恩人の敵《かたき》、すぐに飛びかゝろうかと思いましたが、先は剣術|遣《つか》い、女の痩腕《やせうで》でなまじいな事を仕出来《しでか》して取逃すような事がありましては、御恩を仇《あだ》で返すようなものだと思い直しまして、何《ど》うしようかと案じて居ります矢先、御当家の御子息さんから、近頃私の家《うち》の隠居所に島から帰った侠客《おとこ》がいると聞いたことを思い出しまして、それとなくかま[#「かま」に傍点]を掛けて聞きますと、確かに旦那様のようでございますから、直《す》ぐとは存じましたが、ひょッと途中で蟠龍軒に気取《けど》られるといかぬと思いまして、日の暮々《くれ/″\》に出かけてまいったのでございます」
という知らせ、情は人の為ならずとは宜《よ》う申したも
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