tの支度をなし、江戸表をさして出立しまして、先《ま》ず本所業平を志して立花屋へまいりますと、何時《いつ》か表は貸長屋になって、奥に親父《おやじ》が隠居して居ります。
 文「御免下さい、立花屋の御主人は御在宅かね」
 主「はい何方様《どなたさま》で、いや、これは/\旦那様、よくお達者でおいでなさいました」
 という言葉も涙ぐんで居ります。
 主「よくまア旦那様、おや、これは/\御新造様でございますか、ようまアお揃《そろ》いで、何方《どちら》からおいでになりました」
 文「いや永々《なが/\》御心配をかけまして有難う存じます、何から申して宜しいやら、何《ど》うも江戸を経《た》って後《のち》はさま/″\な難儀に逢いました」
 町「伯父《おじ》さん、あなたも宜《よ》うお達者で」
 主「さア/\お上りなさいまし……おい、婆《ばア》さん、お茶を持って」
 婆「これはまア旦那様、御新造様、何《ど》うしてまア」
 主「婆《ばゞア》や、御挨拶は後《あと》にしろ」
 主「えゝ旦那様、私も御覧の通りの老人、料理屋を止《や》めまして、只今では表長屋を人に貸しまして、忰《せがれ》は向島の武藏屋《むさしや》へ番頭
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