A一文も銭がねえから可愛想だとは思ったが、お浪を稼ぎに……」
 文「なに、お浪を勤めに出したと」
 國「へえ、旦那の為にゃア命を助けられた私《わっち》ども夫婦でござんす、身を売るくれえは当り前《めえ》の事です、さア今からお支度なさいまし、江戸へお供を致しやしょう」
 文「そうするとお前は、お浪を越後へ置去りにして来たのだな」
 國「そんな事は何《ど》うでも宜《い》いじゃ有りやせんか」
 文「いや左様《そう》でない、幸いに文治は二度も難船して、九死一生の難儀をしたが、肌身離さず持っていた金は失わぬ、さアこの金子《きんす》でお浪を請出し、そちは後《あと》からまいれ、礼は江戸で致すぞよ」
 國「そんなら旦那様、折角の御親切を無にするも如何《いかゞ》、このお金は有難く頂戴いたします、御新造様、随分|危険《けんのん》な山路《やまみち》ですからお気をお付けなせえまし」
 町「有難うございます、早くお浪さんを連れて江戸へお帰り下さいまし」
 文「國藏、心置《こゝろおき》なく緩《ゆっく》りと後《あと》からまいれ、さアお町、もう斯《こ》うなったら一刻も早く里へ出て支度をせねばならぬ」
 と衣類其の他《た
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