s方《ゆくえ》も知らず果てもなし」までは読めましたが、後《あと》は確《しか》と分りませぬ。これは古今集の恋歌《こいか》でございますが、筆蹟は消し炭で書いたのですから確と分りませぬ。
 文「全くお町の成れの果ではないか知らん、旅宿《りょしゅく》で見た短冊《たんざく》といい、今また此の歌といい、何《ど》うもお町らしい、お町であってくれゝば何《ど》れ程嬉しかろう、神よ仏よ、早く此処《こゝ》に居合す人に逢わせ給え」
 と祈って居りますと、積る木《こ》の葉を踏分け来《きた》るは正《まさ》に人の足音でございます。
 文「はてな、今|其処《そこ》へ人が立止った様子、もしやお町では無いか知らん」
 と燈火《あかり》を翳《かざ》して見ようとする途端に火は消えてしまいました。何か口の中《うち》で云うて居《お》る言葉は確かに女の声であります。もう文治は耐《たま》り兼て、「やアお町か」と駈出そうと致しましたが、心を静め、
 文「待てよ、先刻《せんこく》から表に佇《たゝず》んだまゝ近寄らぬ処を見れば、日頃女房に恋い焦《こが》れている我が心に附け入って、狐狸《こり》のたぐいが我を誑《たぶら》かすのではないか知らん
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