「はさま/″\とは申しながら、甲斐なく思うぞよ」
 と熊の頭《つむり》を撫でて暫く有難涙《ありがたなみだ》にくれて居りますると、熊も聞分けてか、悄然《しょうぜん》と萎《しお》れ返って居りまする。お町は涙を払いながら、
 町「さア/\、もう覚悟の我が身、何《なん》の怖いこともない、早く帰ってくれ、さゝ帰ってくれ、まだ私《わし》を慕《した》っていますか」
 と思わず熊の首のあたりに飛付きまして、よゝとばかりに泣き沈んで居りましたが、暫くして我に返り、
 町「さゝ、夜《よ》でも明けて猟人に見付けられては其方《そち》が危《あぶな》い、早う帰ってくれ」
 と両手を合せて伏し拝み、懐中より取出したる夫文治より譲りの懐剣を抜放ち、
 町「旦那様、御免遊ばせ」
 とあわや喉笛《のどぶえ》へ突き立てようと身構えました。さて文治が再度の難船に舟人|諸共《もろとも》気絶いたしました次第は前回に申上げました。天義士を棄てず、あたりの船頭がこれを見付けまして、
 「やア/\彼処《あすこ》に旅人が倒れてらア、それ難船人《なんせんにん》々々々、確《しっか》りしろよ、おゝ気が付いたか」
 文「これは/\何処《どこ》の
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